Once In Forever

わたしは一世一代の出来事に盛大に混乱し、頭を抱えている。

なんと説明したらいいのだろうか。その、今日もわたしは平穏に仕事をしていた。それだけだ。だというのに、「羅浮」の雲騎軍の将軍ーわたしの上司に突然告白されたのである。

告白されたのである。

冷や汗が止まらない。何故、わたしなのか。

いや、決して彼とわたしは何も接点がないわけではない。彼とはいわゆる昔馴染の関係だ。腐れ縁と言っても過言ではない。今ではわたしは剣を置いたが、幼少期に同じ剣を修行する者同士だった。師は違っていたが、鏡流様とわたしの師匠は友人関係だったのもあって、よく会っていたし、手合わせもしていた。勝率は五分五分だった・・・ような気がする。
その後色々とあって、将軍となった彼の部下として働いている。

告白してきたひとが、同僚の男性なら何もここまで困惑することもないだろう。なにせ、顔よし、声よし、地位よし、おまけにポニテ目隠れ泣きぼくろと性癖てんこ盛り且つハイスペックで(悔しいが)イケメンに告白されたのだから、多少はわかって頂きたいのだ。たとえ、昔馴染相手だとしても。

あ~あ。大昔は鏡流様の後ろをてくてく付いていく、わたしより背が低くて可愛い子だったのにな。

わたしは将軍の席に視線を移した。彼は何事もなかったような涼しい顔でスマホをみている。いや、ちゃんと仕事しましょうよ。ほら、また書類の山が追加されましたよ。

わたしの視線に気がついたのか、目があってしまった。ハッとしてすぐに顔を下にそらす。その直後ピコン♪とスマホが鳴り、誰からのメッセージだと思ったら将軍からだった。

『そんなに見つめて、私の顔に何が付いているのかな?』
『(クエッションマークがついた可愛いキャラクターのスタンプ)』

「~~~~っ!」

何だその余裕の態度はとか、こちらの事情も知らずにだとか、その可愛いスタンプのキャラクターの詳細が知りたいだとか、色々感情が浮かんだが、それらの勢いに任せて『知りません!!』と返信し、スマホを鞄の中にに放り投げた。



それからというものの、将軍から毎日のように贈り物が自宅にくるようになった。綺麗な花束や、高級菓子、アクセサリーなどなど・・・。

決して、嫌とか、迷惑だとか感じることはなかった。純粋に少し嬉しかった。ただ、わたしは彼への返事をずっと考えている。自分の気持ちがイマイチよくわからないのもあり、中々できないでいる。人を好きになることはどういうことなのか(哲学)。そんなことまで考え出す始末。いつまでも待たせるにはいけないから、早めにしたいとは思っている。

将軍のことは嫌いではない、それははっきりと言えるだろう。でも、恋愛的に好きかどうかは・・・考えてもやはりよくわからない。

そんな将軍は、今日も自席で船を漕いでいる。かなり失礼だが、なんてのんきなやつなのだろう。そののんきさを少し分けて欲しいくらいだ。




その日はいつもより仕事量が多いのもあって、定時退勤派のわたしは”仕方なく”残業していた。スマホで時間を確認する。あぁ、もうこんな時間か・・・。今夜は適当に惣菜を買って帰ろうかとか、寝るのが遅くなるとか考えながら仕事を片付けていたら、頭上から声をかけられた。

「君が残業とは珍しい」
「あ、将軍・・・」

彼はデスク上の書類に手にとる。

「これくらいなら、ふたりならばあと30分程で終わるだろう」
「そうですね・・・、て、え?!」

将軍は書類を整理し始めた。待て待て、上司とはいえ、将軍に仕事を手伝わせるのはいくらなんでもまずい。しかも彼の方が仕事量は多いはずだ。

「いいです!将軍!手伝わせるなんて、あなたにもまだ仕事があるでしょう?!」
「つれないことを言わないでくれ。今日は仕事はあらかた片付けてある」

それは珍しい、と言いかけるところだったが、ぐっと堪え、わたしも仕事に取り掛かる。

結局、ふたり手分けして仕事を終わらせた。予想よりもずっと早く作業が終わり、大助かりといえばそうなのだが。加えて将軍はわたしを自宅まで送ると言うのだ。そこまでは、と言いかけたが、夜道に女性一人は危ないからと有無を言わせる気は彼にはなかった。その言葉に甘えて送ってもらうことになったのは良い。道中、上手く彼と話せなかった。話せるわけがなかった。告白されたし、未だに返事はしていないし。将軍の話すことに曖昧な生返事で返すのがやっとで、居心地が少々悪かった。むしろ告白した張本人は何故、いつも通りにわたしと接することができるのか疑問に感じる程だ。

自宅に到着し、お礼を言い、玄関扉を開けようとした矢先、腕を掴まれた。

「{{name}}」
「将軍・・・」

わたしを見つめる彼の満月の瞳は、いつもより細められ、わたしの名を呼ぶ低い声も(気のせいでなければ)甘さを孕んでいた。

「・・・返事はいつでもいい」
「っ・・・」
「また明日、{{name}}」

そう言って将軍は翻し、闇の中へ消えていった。

”返事はいつでもいい”は、裏を返せば”返事は必ずしろ”と言っているようにわたしは感じられた。だからこそ、余計に焦りを覚えるのだ。

「あ~もう!今日はさっさとシャワー浴びて寝よ!!」


わたしは珍しく夢をみた。将軍と剣の修業をしていた幼少期の頃の夢だ。一緒に素振りをしたり、手合わせしたり、遊んだり・・・。今更になってあの頃の夢をみるのは謎だが、当時、わたしたちは同じ志を持つ対等の友だった。今じゃ将軍とただの文官。彼を遠くに感じるのは無理もないでしょ?夢をみたことによって、それをより強く感じさせられた。



斬撃音の直後、魔物の断末魔がこだまする。幾度もなくそれらが深夜の空に響きわたる。

血に濡れた剣を持ち、わたしは額の汗を拭う。気持ちがもやもやしていて気持ち悪いときは、こうして夜に魔物を狩っている。戦っているときは、何もかも全て忘れられるから。仕事のことも、生活のことも、上司のこともーーー

久しぶりに剣を握ったが、感覚や腕はまだまだ鈍っていない。あの頃の厳しい修行のおかげだ。師匠には頭が上がらない。わたしは辺りを見回すが、もう魔物の気配は感じられない。近辺の魔物は狩り尽くしたのだろう。剣に付いた血を丁寧に拭き取り、鞘に収める。その場を立ち去ろうと背を向いて歩き出す直後。背後の倒したはずの魔物が、最後の力を振り絞り、襲いかかる。すぐに反応はできた。が、防御に間に合わない。

「ーーーー?」

一向に攻撃がこない。思わず閉じてしまった目をゆっくり開けると、将軍が立っていた。

「怪我はないか、{{name}}」

そう言って、安堵の表情した将軍はわたしに手を差し伸べた。その姿に幼少期の記録がフラッシュバックする。



「大丈夫?!{{name}}っ!!」

わたしが自分の実力を知りたくて、無謀にもひとりで魔物狩りに行ったときだ。魔物に囲まれて絶体絶命のときに、将軍、鏡流様、師匠が助けに来てくれたときのこと。3人で魔物を殲滅した後、すぐに幼少期の将軍はわたしに駆け寄り、酷く心配した表情で手を差し伸べてくれた。



「は、はい、大丈夫です。将軍」

差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

「剣の修業をするのはいいが、こんな時間に、しかもひとりでは危険だ、{{name}}」
「そう、ですね、すみません」
「いや、謝らなくていい。君が無事で何よりだ」

そう言い、将軍は微笑んで、わたしを左腕で抱き寄せた。その笑顔は、いや、それ以外も彼は幼少期頃から何も変わっていない。あの頃から、あなたは一途にわたしを想ってくれて、助けてくれていた。そして今このときも。たしかにお互いの立場は激変した。それでも彼は変わらずわたしと接してくれてたのだ。

遠くに感じていたのは、変わった立場を理由に彼から遠ざかっていたのはわたしだった、のかもしれない。自分の想いも今、はっきりとわかった。

「ねぇ、景元」
「!・・・なんだい?」
「こんなときに返事をするのもアレだけど、わたしもあなたのことが、好き、なの」
「ふふ、それは良かった」

本当はわたしの気持ちなんて最初からわかってるくせに。ぎゅっと、景元の胸に顔を埋めるわたしを、剣を収めた彼は両腕で強く抱き締めてくれた。その時間は実際には数分程度だったが、わたしには永遠の半分くらいには酷く長く感じた。

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