Dreaming a dream with u

「お疲れ様、刃ちゃん」

刃はカフカさんという同じ星核ハンターにこれまでの報告をしていた。活動期間が少々長かったからか、カフカさんはしばらく休んでもいいと休暇時間をくれた。私も長い時間、刃に連れ添っていたというより彼に同行させられていた為、正直かなり疲れている。体力の限界はとっくに越えていた。

「{{name}}」

刃は自分の後ろにいた私に声をかけ、私の腕を掴んではどこかへ歩きだした。私も彼に合わせて付いていく。



「へ~、あの子が刃の彼女なの?本当にいたんだ」
「あら、銀狼。おかえりなさい」

風船ガムを膨らませながら、暗闇から銀狼という名の少女が姿を現した。

「刃ちゃんの言葉を借りると、彼女に”大きい借り”があるそうよ」
「”大きい借り”じゃなくて、単純に”大好き”なんでしょ」

「ふふ、そうよねぇ」「変な男に好かれちゃったね、あの子」と、ふたりは笑いあった。





「刃、さっき怪我したところ診せて?」

簡素なベッドに小さめな机がある質素な部屋に移動した私は彼に手当てさせようと促す。刃は返事をせず黙って上着を脱いだ。彼の筋肉の引き締まった躰には無数の傷痕がある。そのほとんどは彼の人間離れした再生力で問題なく回復している。先程での戦闘で怪我したいくつかの傷を診るが大方回復していたので、軽く傷薬を塗って包帯を巻き直した。こうして手当てするたびもったいないと思う。傷が無ければ、もっときれいで素敵な躰だと思えるから。でも彼は戦士として生まれたから、それには全く無縁なのだけれども。刃にはまだ言っていないが、そんな躰も私は大好きだよ。

「はぁ、お腹すいたな」

ようやく座れて休めると思うのもつかの間、今日は朝からまともに何も食べていないということに気が付いてしまった。きっと彼もお腹が空いているだろう。何か食材でもあれば軽く作れたかもしれないが、そんな都合良く持ち合わせてなどいない。私たちが今根城にしているココだって、調理器具や機材どころかまともな食料の備蓄がない。仕方がなくショルダーバッグを漁れば、底に賞味期限切れの携帯食料が奇跡的にふたつあった。ありがとう、星神様。

「これしかないけど、食べる?」

刃にそれを差し出しで訊くと、軽く頷いて受け取り、黙って食べ始めた。

「うわ、パッサパサじゃん」

思わず口に出してしまったが、文句は言えない。私もパッサパサな携帯食料を食べる。賞味期限が切れてたとはいえ、味は特に気にするほど悪くなかった。しかし,あっという間に無くなり、それだけでは流石の少食の私も全くお腹が満たされることはなかった。私よりずっと多く食べる刃は尚更だろう。



「もう寝ろ」
「うん、・・・でも、一緒に寝よ?」

沈黙が続いた後、刃は私に声をかけては休息を促した。確かにだいぶ夜も更けてきている。しかし、彼だってここ数日間まともに寝ていない。ココなら、彼も仮眠くらいはとれるだろう。彼の片腕に自分の両腕を絡め、そう、お願いした。

刃は私の上目遣いに(実はかなり)弱いのもあって、私を流し目でみつめた後軽く息を吐き、私を抱き上げ、ベッドへ優しく横においた。すぐに隣へ寝転がり、私を抱きまくらのように少し強めに抱きしめた。直後、彼の頭の位置を下げるように動いては、私の胸の間に顔を埋めた。そういうときは決まって私に甘えたいときだ。

「ふふ、甘えたちゃんだね」

込み上がる愛おしさに私は刃の頭を撫でる。まともに手入れしていないくせに、彼の髪は私のよりずっと艶がありグラデーションがかかった長くとても美しいのだ。全く羨ましい限りだ。梳くように触れたら、スルスルと指を抜ける超サラサラ髪。わかってはいたが、悔しくて泣きたくなる。世界が嫉妬する髪とはこういうものなのだろう。女として自信を消失してしまいそうな程だ。




「ねぇ、刃、久しぶりにキス、して?」

しばらくの間彼の頭を撫でながら、なんとなく久しくしてないと頭に浮かんだ。そう言うと刃は、私を仰向けにして、私を上から覆い被さるような体勢をとった。彼は私をまっすぐにみつめるだけで返事はしない。

「私もそうだけど、あなたの少し下手っぴな口付けが大好きなの」
「・・・目を閉じろ」

刃の言う通りに私は目を閉じた。少し緊張しながら待つと、カサついた柔らかいものが自分の唇に触れた。ゆっくり口を開けると、徐ろに彼の舌が口内に入ってきて、お互い舌を絡ませようとした。だが、たどたどしく触れ合うだけでお世辞にも上手いとはいえなかった。ふたりが口付けをするといつもこうだ。それでも、私は彼の口付けが大好きで仕方がない。上手さよりも、刃の不器用だけど強い気持ちが伝わってくることが大切に思えるから。加えて普段は全く愛情表現をしない彼から求められて、酷く気持ちが高ぶってしまう。




「ん、・・・刃・・・」
「{{name}}・・・」

唇が離れると、不思議とお互い名を呼び合い、視線がぶつかった。刃に名前を呼ばれるだけですら、こんなにも嬉しんだから。

愛情表現をしないとはいえ、刃は私のことをとても愛してくれていると勿論知っている。ちょっと口下手で寡黙なだけで、実際は私よりずっと愛が大きくて重い。どんな時だって、どんな所だって、私を連れていき、絶対に自分の傍から離そうとはしない。私が道中、全く知らない男性に道を訊くだけでも、(交流が浅い人には非常に分かりづらいが)明らかに不機嫌になるくらいだから。

「愛してる、だから、ずっと、ずっと一緒にいて・・・」
「っ・・・・、ああ、お前が傍にいるのなら、これ以上の望みはない」

「刃」という名は彼の本名ではない。幼い頃からずっと一緒にいる私ですら、彼の本名を忘れてしまった。本名であった時間より、刃という名でいた時間のほうが遥かに長かったからかもしれない。けど、それは私たちにとっては些細なことだ。

あぁ、この際だから一杯好きって言おう。いつ伝えることができない日が来るかわからないから。

「大好きだよ、刃、誰よりもあなたが好き、全宇宙の誰よりもあなたを愛しているのは、私だよ」
「っ!{{name}}・・・っ」

「っ、あ・・・」

刃は私の左肩に噛み付いた。どうやら彼のスイッチがONになったようだ。こうなると、彼を止めるの至難の技だ。止める気はない、なにせ私がスイッチを入れたのだから。私にできるのは彼に身を任せ、受け止めるだけ。

私の身に着けていた衣服を脱がし、ひとつ、またひとつと私の躰に痕をつける。首筋からそれを徐々に下へ。これは刃の数少ない私への愛情表現だ。この女は俺のものだと刻み、すぐ分からせるために・・・だからかな。最初は痛くて困惑はしたものの、次第に慣れてしまった。仕方がないなで片付けられるようになったし、これも惚れた弱みというやつだろう。そっと、夢中に私の肌に齧り付く彼の頭を撫でる。一瞬、動きが止まったがすぐに再び動き出した。ただ、他人に痕を見られるのは未だ羞恥心を覚えてしまう。だから、せめて服で隠せるところでと、その点は何度も言っていたが、全く改善されないため、さっぱり諦めた。




ふと、窓の外を覗けば夜が明けそうな空だった。どれくらい、こうしていたのだろう。刃の方へ視線を戻せば、丁度スイッチがOFFになっていた。ほぼ裸の状態の私と、私の躰中にある自分で付けた痕に自分で驚き、とても申し訳なさそうな表情で、隣にうつ伏せに状態になった。

「・・・、すまん」
「ううん、いいよ、でもこれじゃ、隠しきれないよ?」
「俺は一向に構わん」
「もう、責任とってよね」

刃は私を抱き寄せ「わかってる」と囁いた。頭を彼の厚い胸板に押し付けられてるので苦しい。とんとん、と胸を軽く叩けば少し緩めてくれた。

「もうこんな時間になっちゃったね。カフカさんの言葉に甘えてしばらく寝よ?」

私の言葉に頷いた刃と私は、目を閉じほぼ同時に眠りに落ちた。この後の夢の中でも、そしてこの先歩む道でも、ずっとあなたと共にいれることを祈って。





窓から差す光に照らされ、目が覚める。手元のスマホを確認すれば、時刻は昼頃を指していた。
視線を少し下げれば、腕の中で眠る少女はまだ夢の中のようだ。

「{{name}}」

光に照らされた彼女の白い躰につく痕にハッとして流石にやり過ぎたと思わざるを得なかった。何度も何度も猛省しては同じことの繰り返し。お前もこれに関しては半ば諦めているのはわかっていた。
だが、抑えが効かないのだ。お前がくれる愛情によって込み上がるものが理性をなし崩しにしてしまう。それは「愛おしさ」などという生ぬるいものでは片付けられない、腹の奥底から湧き上がるどす黒い感情。完全に崩れると、獣のようにお前を求めてしまう。
{{name}}はまだ目覚める気配はしない。しばらくお前の可愛らしい寝顔を眺めていた。


『大好きだよ、刃、誰よりもあなたが好き、全宇宙の誰よりもあなたを愛しているのは、私だよ』
ふと、昨夜のお前の言葉を思い出す。俺は器用な方ではない。すらすらとお前のように上手く言葉に出せたらどんなに良いことなのだろう。
{{name}}、お前がくれるのは”無償の愛”だ。それは決して見返りを求めることはない。泉のように、溢れるくらいに、そして惜しみもしない。俺はそれを”大きな借り”のように感じる。一生をかけても、それを返しきれることはできないだろう。


「ん、・・・刃?」

腕の中の{{name}}は身じろぎ、ゆっくりとその大きな瞳を開いた。その刹那、俺を視認すれば、へにゃりと笑った。彼女は「おはよ」と小さな声で挨拶し、小さなあくびをする。{{name}}は起きようと動くので、合わせて横になっていた体を動かした。

まだ寝ぼけて目をこする{{name}}を、後ろから包むように抱きしめる。

「じ、刃?」
「しばらく、・・・いいか」

理由はわからんが、しばらく、こうしていたい。{{name}}は黙って躰を俺に預けた。彼女の右手を自身の右手で重ねれば、想定よりも小さく細かった。包み込むように握ったが、{{name}}は右手をひっくり返し、俺の右手指と自身の指と絡ませた。彼女の表情は後にいる故見えないが、耳がほんの少しだけ赤く滲んていた。それを見た俺は、魔が差したといえばいいのか、彼女の右耳に舌を這わせた。

「ひゃっ・・・」

耳の輪郭を下から上へとゆっくりと舌でなぞり、耳輪を甘咬みする。すればするほど彼女の耳はどんどん赤くなっていく。

「っ、あっ、・・・ひゃんっ、やぁっ!」
「! 嫌、だったか」

{{name}}の甲高い声に、ハッと我に返る。恐る恐る彼女の顔を覗けば頬を赤く染め、肩をぴくぴくさせていた。{{name}}は少し困った表情で俺を見上げ答えた。

「違うの、嬉しいの、・・・・だからもっと触れて、欲しい・・・」
「!」

完全に嫌がられると思ったと同時に安堵したが、かなり意外に感じた。はしたないかな?とたずねるお前に、俺は首を横に振り、彼女のうなじに痕をつけるほど吸い付いた。うなじから顔を離すと、{{name}}はこちらに顔を向けた。誰が言うまでもなく、お互いの唇をそっと重ね合った。何度も角度を変えては、啄くような口付けを繰り返した。

内にある小さな熱が、昨夜の残り火か否か最早どうだってよかった。その熱がより大きくなるのを感じた、触れて欲しいなどと言われたものなら。欲しい、欲しい、{{name}}、{{name}}、{{name}}、・・・・

気がつけば俺は{{name}}の唇を奪っていた。驚いた彼女の舌を舐めとり、唇に吸い付く。先程の啄くような口付けは嘘のように、深く、深く、絡み合う。接吻の仕方など知らん俺にはただ本能に近いなにかで這わせるだけ。それだけでも、伝わる快感は昨夜のそれよりずっと感じられた。薄ら目を開ければ、目の前には蕩けた表情のお前がいた。そんな顔、俺以外の男などに見せないでくれ。夢中にお前を求めていれば、とんとんと軽く胸を叩かれる。

「はぁ、は、あ・・・刃・・・」
「今日の刃、積極的で、私、凄く、ドキドキ、してるの」

{{name}}は両腕を俺の首に回し、息を整えたら、彼女からまた口付けた。

「積極的な刃も、いつもの寡黙な刃も、どっちも大好きだよ」

満足したらしいお前は俺に上半身を預け、その躰を俺自身の両腕で閉じ込めた。そこからしばらくの間沈黙が流れた。俺はこの静かな時間が好きだ。何も言わずともお互いの呼吸を感じられる。今のお前はいつもより鼓動が速い。それは酷く俺を安心させ、油断させる。もっとこの身で感じたくて、柔らかいお前の躰をより自分の方へ寄せた。お互いの躰が密着する。これでは速さの増す俺の鼓動もお前に聞こえてしまうだろう。だがそれも悪くはない。



俺にはもう、お前しかいない。お前には俺しかいないように。

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