「ガァァ!」
ひとり、またひとりと刃は敵を斬り倒していく。私は邪魔にならない場所から彼を見守っていた。道中、私たちは賊の襲撃に遭った。賊たちは複数人がけで刃に攻撃を仕掛けるが、彼は眉ひとつ動かすことなく応戦している。刃に連れ添ってると、こういう奴らに絡まれるのはよくあるし、もう慣れてしまった。
「なんだこいつ!化け物みたいに強いぞ!」
「・・・・・」
正直にいえば、賊たちは喧嘩を売る相手を間違えてしまっている。たとえ1人対複数人の戦いとはいえ、賊たちはろくに戦い方も知らずに武器を勢いに任せて振り回しているだけの素人同然。剣の達人である刃の敵ではない。どちらが有利なのかは、戦えない私でも手に取るようにわかる。戦闘技術も、スピードもレベルが桁違いなのである。逆に賊たちの不運が可哀想に思える程だ。
「ギャァァ!」
賊たちの大振りな斧をひらりとかわし、一撃必殺の反撃を繰り出す。汗ひとつすらかいていない刃は、無言で敵を斬り伏せていく。・・・その姿は酷く美しくてかっこいい。そんな彼の戦う姿に見惚れていた私は、背後から近付くひとりの賊に気が付かなかった。
「っ!」
「へへ、捕まえたぞ」
賊は私を背後から捕まえ、刃に私を人質として突き出した。これも時々経験する。私が油断するのが悪いのだけれども。それに気が付いた刃は賊の言葉などに全く耳を傾けず、尋常ない速度で私を捕えてる賊に急接近し、その首を跳ねた。彼の剣撃に巻き込まれないよう、頭を極力伏せる。
「ありがとう、刃」
「いい」
最低限の返事だけをして、彼はまた賊たちを斬り倒していく。いつもは不利になると賊たちは撤退していくが、今日は賊たちの数がいつもより多いだけあって、中々撤退をしない。賊の1人が不意に攻撃の標的を私に変え、襲いかかってきた。刃はやや遅れて反応し、その賊へ駆け込む。直後、私を庇い、肩に攻撃をまともにくらってしまう。
「っ!{{name}}・・・!」
刃は私を左腕で抱き寄せ、賊たちの猛攻を防御し続けている。これでは防戦一方だ。
「く、・・・っ」
「刃!」
刃は遂に地面に膝をついた。ヒビのはいった愛剣を支えに、なんとか姿勢を保っている。形勢逆転。ゆっくりと賊たちが私たちに近づいてくる。
「{{name}}、逃げろ・・・」
「っ!・・・嫌」
私の返事に刃は苦い顔をする。そんな顔されたって私は逃げない。どんな時も、どんな場所でも、ずっと一緒だった。今までもこれからも。それは死ぬときだって同じ。だが、ただでは転ばない。私はショルダーバッグの中にある薬品入れに手を突っ込む。
「{{name}}・・・」
賊たちをまずはぎりぎりまで引き寄せる。正直、成功するかはわからない。けど、今はこれにかけるしかない。私は近付く賊たちの距離を見計らう。
「っ!」
「うわっ!」
眼前までに近付いた賊どもの顔に薬品をかけた。何となく用意していた「嘔吐剤」だ。多少の目潰しと隙をつくるには良いだろう。賊どもはケホケホと咳き込んでいる。まさかこんなところで威力を発揮するとは思わなんだ。だが、逃げるなら今だ。刃の方へ顔向けば、こくんと頷くと私の手を引き、全力で逃走した。
「は、はぁ、はぁ・・・」
しばらく全力疾走したが、これで賊どもをまけただろう。刃の方を見れば、膝をついて荒く呼吸していた。酷く怪我をした切傷からは血がドロドロと出ていては、彼の足元に血溜まりをつくっている。まずいと、彼の傍へひざまずく。夢中で走っていたため天気の変化まで気にする余裕はなかった。賊との戦闘時より空が雲で覆われ暗くなっていた。ポタポタと雨が降り始め、やがて強くなった。これでは手当てができない。周りを見回しても、雨宿りできそうな場所はない。
こうなったら――
私は刃の右肩を持ち上げ、彼の右腕を自分の肩の上に置く。
「刃、歩ける?」
そうたずねれば、彼はゆっくりと立ち上がった。ズシッと彼の体重が肩にかかる。これは・・・重い。だがそんなこと言ってられない。どこか雨を凌げるところを探さなければ―――
それからどれくらい歩いたのだろう。私も体力が限界に近い。日は沈みかけ、強い雨は容赦なく降り続けては私たちを追い詰める。ふと前方を見れば、誰のかわからないが(都合良く)古い山小屋がある。これは僥倖。少し使わせて頂くことにしよう。ありがとう、星神様。
山小屋内に入り、刃を床に座らせ、直ぐに彼の手当てを始める。彼の血が滲んだ上着を脱がせ、怪我をしたいくつかの切傷を診る。彼の自己治癒能力もあってか、どれも血は既に止まっていた。タオルで濡れた上半身を拭き取り、傷薬を傷口に塗り込み、包帯を巻く。これで大丈夫、彼の再生能力なら明日、明後日には傷は塞がるだろう。取り出していた医療品をバッグへしまっていると、刃から声をかけられた。
「・・・・、すまない」
「!・・・謝らないで、これくらい当然でしょ?どんな時も一緒だよ、死ぬ時も」
刃は一瞬驚くように目を見開いたが、直ぐに目を伏せた。何もそこまで気にしなくてもいいのに。刃の手当てが完了して安心しきったのか、女らしくない大きなくしゃみがでた。気がつけば日は完全に沈み、気温もかなり下がって寒いくらいだ。だが雨は止むことを知らずに、以前より更に強く嵐の如く降り続けていた。濡れきった刃と私の上着を適当に干す。山小屋内の奥には暖炉があったので、なんとか火を起こし(彼から火起こしの仕方を聞いてて良かった!)、暖炉に灯火が宿る。他にも何かないか室内を漁ってみたら、ホコリの被った毛布を発見した。ぱんぱんと軽くホコリを払って、それをに刃かけてあげて、ふたりで暖炉の前に座った。
しばらくふたり暖を取っていたが、何度もくしゃみをする私を心配したのか、刃は毛布を私の肩へかけようとする。
「だめだよ!それは刃が使って、私は大丈夫だから」
それを聞いた刃は何か考えている様子だったが、その後何か思いつき、黙って私を後から包み込むように抱き締め、腕の中へ閉じ込めた。そんな体勢のふたりを包むように彼は毛布を被った。これならいいだろう?と言わんばかりに、私の顔に自身の顔を近づけた。刃は上半身裸で、私は下着姿。毛布の暖かさ以上に、躰に直接伝わる刃の肌からの熱に、私の鼓動はどんどん速くなっていく。とても温かい。
「っ」
うう、しかも彼と顔が近い。あぁ、なんて綺麗なんだろう。美しく整った顔立ちに、彼岸花のような赤い瞳、長い睫毛、艶のある美しい長い黒髪、薄い唇・・・、私なんかよりも、一般女性よりもずっと彼は美しい。
「どうした」
間近で顔を見られ続けていた刃は私に声をかける。私は彼に綺麗だと返事した。
「? お前の方がずっと美しい」
「!!!!!」
こ、こいつ~~~~~~。普段は寡黙でしかも口下手のくせに、不意打ちしてくるんだから。そういうとこやぞ!赤くなっているだろう私の顔を彼に見られるのが恥ずかしくなってきて顔を伏せる。でも彼にそういうことを言われると素直に嬉しい。しばらく刃とぽつぽつ話をしていたが、次第に睡魔が訪れ、コクリコクリと私は船を漕ぎ始めた。
「お前は眠るといい、俺は起きている」
彼からの促しにうん、と返事し、躰を彼に預け、目を閉じた。
窓から指す朝日に照らされて、私は目を開き、ゆっくり起き上がった。火の消えた暖炉の前で、横になっていて毛布がかけられていた。刃はどこと、辺りを見回す。
「起きたか」
彼の声のする方へ向けば、刃は扉の隣の壁を背にして、腕組をして立っていた。
「刃、もう怪我は大丈夫なの?」
私は刃の方へ駆け寄り、怪我の状態を伺う。彼は何故か私と目線を合わせず、大丈夫と返事した。どうして目を合わせてくれないのと尋ねれば。
「・・・早く服を着ろ」
「あ」
刃は私から目をそらしながら小声で答えた。そういえば私、下着だけだった。干していた自分の衣服に急いで着替える。
「{{name}}」
「なぁに?」
刃は私の左頬に手を添える。大好きな大きくて温かい手。どうしたの?ともう一度問えば、刃は背をかがめ、触れるだけの口付けをくれた。
「礼を言う。お前に助けられた。もう二度と逃げろとは言わない、離す気は全くない、必ずお前を護りきる」
「!! 刃、大好きっ!」
「っ!」
私は勢いに任せて彼の首に腕を回して抱きついた。刃も、私の躰に腕を回し強く抱き締めてくれた。しばらく抱き合った後、刃は惜しむように私から腕を離し、行くぞと声をかけた。
山小屋から出れば、強い日差しが私たちを迎えてくれた。あの嵐の夜が嘘のように、雲ひとつない快晴だ。
「ねぇ、刃、手を繋いで歩こ?」
刃の手を握れば、彼は私の手を取り、指を絡ませた。いわゆる恋人繋ぎだ。なんだか嬉しくなってきた。彼は私の歩幅に合わせゆっくりと歩き始めた。私も彼の横で歩く。
これからこの先、もっと大変なことだって起きるだろう。悪いこともあれば良いこともある。
でも私たちなら大丈夫。
根拠はないけど、お互い傍にいて助け合えば、きっと乗り越えられる。
Every cloud has a silver lining.